The right answer.










 夜の闇は気温が決して高くなくとも冷たく感じられ、どこまでも前に進みにくいような感覚を覚える。
「かごめちゃんたち、どこかなあ。」
飛来骨で目の前の草木を掻き分けながら、後ろを歩く法師に喋りかける。
「さあ…まずいことをしましたな。こんな、朔の日も近い三日月の夜によりにもよってはぐれるとは。」
「うん……真っ暗で、三寸先も全然見えない。手こずるね。」
「ああ。」

 全く思い返すのも忌々しいあの妖怪どもめ大した力もない癖して群れで襲ってきやがって…などと、心の中で悪態をつく。一刻ほど前、一行は妖怪の群れに襲われ、その騒動の合間に見事に二手に分かれてしまったのである。雲母も運悪くかごめの自転車とやらの籠の中だった。空から探すことは、できない。
 たまたま退治屋服を着たままだったから良かったが、そうでなければ小袖姿でやぶを突き進むことになっただろう。
考えるだけでうんざりだ。そう考えながら、珊瑚はただひたすら勘を頼りに先へ進んでいた。


 「全く、仲間がいると、こういう時は不便ですなあ。」
「え?」
振り返ると、なんだかしみじみとした表情を作って法師が独り言とも何とも取れないことを言っている。
「騒動が片付いたからといってとっとと先へ行ったり休んだり出来ませんから。まずはみんながそろわないと何も出来ない。してはいけない。」
「……。」
 獣道に出たため、幾分歩きやすくなった。そのため、それまでよりは集中して法師の声を聞ける。
「まあ、ねぇ。でも、」
「でも一緒にいるから出来ることもあるんですよねえ…全く、面倒くさい。」
言おうとしたことを先に言われて、少々むくれる。すると、法師が今度は確実に“訊ねて”きた。存外、真剣に。
「ねえ珊瑚。お前は、あいつらに…犬夜叉たちについてきて、良かったと思いますか?」
 はっとして振り向く。久々に見る、真っ暗で何も映そうとしない哀しい瞳がそこにあった。
「…何さ、急に。」
「いえ別に。突然、そう思いましたもので。」
 こともなげに言う法師を一瞬だけ見つめ、すぐに前を向き刀を振るった。生い茂っていたススキがあっという間に消え去る。
「…分からないね、今はまだ。この選択が良かったのか悪かったのか、なんて。あたしはただ……」
がっ、と叩き斬るようにしてススキの群れを薙いだ。はらり、はらり、まるで雪のようにその穂が舞い落ちる。
「…ただ、目の前に立ち塞がるものを倒すだけだ。どんなことをしてでも…殺してでも、裏切ってでも。その先に求めるものがあるのなら。」
 その眼に宿る光は鋭く冷たく、しかし命を含んだ熱在りし光だった。
「文句、ある?」
「いいえ。」
そして、
「私も似たようなものですよ。」
どういうことだと言うように軽くまばたきをした珊瑚に向かって優しく微笑み、言った。
「私にも、未だに分からない。こうしてここにいるのが果たして正しいことなのか、関わりを持つ人間を作ったのは間違っていなかったのか。……それでも、私はただ……」
 淡かったはずの月明かりが、すっと真っ直ぐにその顔を照らした。何も映らない瞳はその光を受けて何よりも輝いて見え、逆に生気が失せたようだった。
「…切り捨てていくだけでしょう。要らないものは、悪いものはすべて切り捨てて、必要なものだけを目の前に残して生きましょう。」

 たとえ、“要らないもの”が自分だったとしても。
 その時は、迷わずに自分を“切り捨てる”。



「…それが、今のところの法師さまの“答え”?」
「はい。」
躊躇うことなく返事を返した法師をしばらく見つめ、そして珊瑚は刹那の間だけ目を伏せた。
 道が坂になっているため、いつもと違って視線は珊瑚の方が高い。見下ろすようにしていた珊瑚が、ふいに刀を納めて飛来骨も木に立てかけ、そして少し斜面をおりた。弥勒の、すぐ前に。
 「…珊瑚?」
問いかける声には答えず、無言でぽすっと彼の胸に頬をうずめて腕をその背中に回す。力を込めると体温が布越しに伝わって、なぜだか改めて生きているということを実感したりする。
「…ねえ、法師さま……」
ゆっくりと法師の手が己の背中に回ってきたのを感触で確かめて、口を開いた。
「あたしたちの“答え”が、間違っているのかな?ここにいると決めたことが、間違っているのかな?それとも、なんにも、間違っていないのかな?」
 応えることなく、法師は腕の力を強めた。軽く首筋に口付け、ほんの少し舌でなぞる。
 顔を離し、視線を合わせ、囁くような小さい声で言う。
「さあ。多分、誰に聞いても、分からない。」
さらに言う。
「“答え”が要るような道を歩く人間には、」
かすれそうな声をしぼって、彼女の額に唇を寄せながら。
「きっと、分からないようになっているんですよ。」










++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ここまでってことで…うわ、微妙。これは一応テーマあるのにな…なぜか途中で面倒になったんだな(それかい)
 実はこれが日記で時々もらしてた”微妙に裏っぽいやつ”だったりする。全くそんなんじゃないではないかと言われればそれまでだけど、書いた本人的には最後の方が充分危ないんですよ。幼稚と言うなら言って笑うがいいさ、これがこの人の精一杯だ!(逆切れ)
 とにかく飽きてしまったのです。ごめんなさい…。